◆種牛処分の衝撃
「こんなことで本当に感染を防げるのかなあ」
三重県松阪市。牛舎の周りに消毒用の石灰をまいていた男性(61)は思わずこうこぼした。宮崎県産の子牛を肥育しており、現在は感染の疑いはないが、不安はぬぐい切れない。
宮崎から1千キロ近く離れた関東地方でも、自治体が畜産農家に石灰を配る動きが出ている。養豚が盛んな千葉県旭市では豚舎に懸命に石灰をまく人の姿が目立つ。
宮崎県の種牛49頭殺処分決定は、他県に衝撃を与えた。ブランド和牛の「但馬牛」で知られる兵庫県は、県立農林水産技術総合センター(加西市)で飼育する種牛12頭のうち数頭を万が一のときに備え、50キロ離れた施設に分散して飼育する検討を始めた。
「種牛を育てるには6年かかる。1カ所で管理するのはリスクが大きい」
県畜産課の担当者はこう話す。宮崎と県境を接する鹿児島ではすでに種牛の隔離がスタート。
25日には6頭が本土から海を隔てた喜界島に到着し、空き牛舎での飼育が始まった。大分県も来月、36頭いる種牛のうち10頭を約70キロ離れた牛舎に移す方針だ。
◆感染力は強大
口蹄疫の感染力の強さには、多くの畜産関係者が危機感を抱く。宮崎大学の後藤義孝教授(家畜微生物学)は「感染の疑いのある家畜の殺処分が終わっていない状況では、虫や小動物が遠くにウイルスを運ぶなど、あらゆる方法で感染が広がる可能性がある」。
人を介して感染が拡大する可能性も指摘されている。農林水産省は「人に感染しない」としているが、東京大学の山内一也名誉教授は「深刻な病気を起こすわけではないが、動物と濃厚な接触をした人に感染することもある。人ののどに残っていたウイルスが、動物に感染する可能性もわずかだがある」と解説する。
◆動物園でも消毒
人の衣服に付着したウイルスが感染を広げる可能性もあり、各地の動物園では、動物との接触を制限する動きも出ている。神戸市灘区の王子動物園では、入園客が動物と遊べる「ふれあい広場」で、ヤギや羊などの放し飼いを中止。入園客が触れないようにバーを設置した。奥乃弘一郎副園長は「動物のためでもあるし、お客さまの安心も考えてのこと」。
東京都日野市の多摩動物園も同じように囲いを設け、「ヤギにさわらないでね」という張り紙をした。牧畜で有名な北海道では、帯広市で6月20日に予定されていた「八千代牧場まつり」が中止になるなど、牛と触れあうイベントが中止や延期になっている。
農水省の疫学調査チームのメンバーは「感染経路が分からない中、少しでも先取りして危険を回避する、というのは間違った判断ではない。それだけ不安が広がっている証拠でもある」と話した。
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